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東京地方裁判所 昭和32年(行)50号 判決

原告 堀節治

被告 浅草税務署長

訴訟代理人 加藤宏 外三名

主文

本件訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者双方の申立)

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し、原告の昭和二八年度所得税につき昭和三一年一一月二〇日付で課税総所得金額を金二、七六〇、七〇〇円と更正した処分はこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、本案前の申立として主文と同旨の判決を求めた。

(当事者双方の主張)

第一、原告訴訟代理人は、請求の原因及び被告の本案前の申立の理由に対する反論として次のとおり述べた。

一、原告は、昭和二九年三月、被告に対し、昭和二八年度所得税につき、別表第一記載のとおり確定申告をしたところ、被告は、昭和三一年一一月二〇日、別表第二記載のとおり更正する旨の処分(以下本件更正処分という。)をし、同時に過小申告加算税額を決定してその旨原告に通知した。

二、しかしながら、本件更正処分は原告の右年度における課税総所得金額を過大に評価した違法があるのでその取消を求める。

三、原告は次のとおり訴願前置の手続を経由している。

(一) 原告は、昭和三一年一二月一八日、被告に対し、東京国税局長宛の審査請求書を提出したが、その内容は本件更正処分に対して不服を申し立てる趣旨のものであることは明白であるから、右書面の表示は被告宛再調査請求書の誤記であり、その表示如何にかかわらず、再調査請求書として取り扱われるべきものである。被告は、原告に対し、昭和三一年一二月二一日付で収支計算書と貸付金明細書を追完すべき旨を命じたが、これは被告が前記書面を再調査請求書と認めたものといわなければならない。なお被告は昭和三二年一月一四日付で原告に対し右書面の表題を再調査請求書と訂正するよう原告に通知したが、これは被告が右書面を再調査請求書として認めたことを何ら左右するものではない。

(二) 被告は、原告が提出した前記審査請求書と題する書面を東京国税局長に送付することについて原告の同意を求めたうえ、これを昭和三二年一月二九日同国税局長に送付したが、これは、被告が所得税法第四九条第四項第一号に基き、原告のした再調査の請求を審査の請求として取り扱うことを適当と認め、かつ、これにつき原告の同意があつたので、審査の請求とみなして東京国税局長にこれを送付する手続をしたものに外ならない。

(三) 東京国税局長は、昭和三二年三月二五日付で原告に対し、収支計算書を提出すべき旨の補正命令を通知したが、これは同国税局長が被告から送付を受けた前記書面を審査請求書として受理したうえ実質的な審理を開始したことを意味するものに外ならない。

(四) 仮りにそうでないとしても、被告は、原告のした再調査請求につき、原告に対しその請求の日から三ケ月にあたる昭和三二年三月一八日までに何ら決定の通知をしなかつたので、所得税法第四九条第四項第二号により右再調査請求は審査の請求とみなされた。

(五) 原告が再調査請求書に被告及び東京国税局長から追完を命ぜられた収支計算書、貸付金明細書を添付しなかつたのは何ら請求の方式の欠陥ではない。すなわち、一般に税務署長ないし国税局長が再調査あるいは審査の請求をした者に対して証拠書類の追完を命ずることができる範囲はあくまで請求者が不服を申し立てている事項に関するものに限られるところ、原告が不服を申し立てたのは、被告において別表第二記載のように雑所得金二、四五八、一〇〇円を所得に加えたこと、医療費金一一九、七二〇円を所得控除額から除外したことに尽きるが、そのうち医療費については確定申告の際に関係領収書を添付して提出したのでさらにこれについての証拠書類の提出を求める必要はないはずであるし、雑所得については原告はその不存在を主張するのであるから、その証拠書類などあるはずもなく、しかも被告の認定したのは要するに三口の非事業貸付金の利息又は遅延損害金であつて、これについては被告においてすでに一応の証拠書類を入手しているのであるから、さらに原告に証拠書類の提出を求める必要はないのみならず、原告は貸金業者ではないから収支一覧表や貸付金明細書のようなものを作成していないので、提出を求められてもこれを提出することができない。もともと再調査ないし審査の請求に証拠書類の添付を求めるのは、税務当局をして事実の真否を能率的に判断せしめるために外ならないから請求者の提出すべき証拠書類もその所持するすべてのものではなく右の目的に必要な範囲内に限られるが、本件においては税務当局は前述のとおりすでに事実の真否を判断しうる証拠書類を入手しているのであるから、被告あるいは東京国税局長はもはや原告に対し収支計算書、貸付金明細書などの提出を要求することはできないものというべきである。

(六) したがつて原告の再調査請求、審査請求は結局において適法であるにもかかわらず、東京国税局長が昭和三二年六月六日付で原告の審査請求を却下する旨の決定をしたのは違法であり、要するに原告は本件更正処分につき適法に訴願手続を経由しているものというべきである。

第二、被告指定代理人は、本案前の申立の理由として次のとおり述べた。

一、原告が昭和二八年度所得税につきその主張のような確定申告をしたところ、被告が原告主張のような更正処分をしたことは認めるが、原告の本件訴は訴願前置の要件を欠いているので不適法である。

二、原告は、昭和三一年一二月一八日、本件更正処分に対して被告に東京国税局長宛の審査請求書と題する書面を提出したが、その内容から判断して原告の昭和二八年度の所得税更正処分に対する不服の申立であることが明らかであつて再調査請求の誤りであると思われたので、原告に表題及び宛先を訂正するよう電話で再三連絡するとともに、昭和三一年一二月二一日付で所得税法第四八条第一項、同法施行規則第四七条、同法第四八条第四項に基いて証拠書類として収支計算書を提出するよう補正命令を発したところ、原告は、更正のために調査をした被告によつて再び調査されても有利な結論のでないことは明白であるから東京国税局長による調査を希望する旨理由を明示して表題及び宛先の訂正を拒否する意思を表明したので、被告はあらためて文書をもつて期限を定めたうえその訂正を求めるとともに、原告の代理人である税理士内山栄一を通じてさらに訂正方を申し入れたけれども、原告はなおこれに応じないので、被告はやむなく宛先である東京国税局長に右書面を送付した。同国税局長は、原告の利益を考慮して昭和三二年二月一八日に原告に対しその提出した前記審査請求書を再調査請求書に訂正するよう指示し、これに応ずれば法定期限内に再調査請求があつたものとして取り扱う旨を申し入れたが、原告はこれに応じなかつたのみならず、右書面を審査請求書として取り扱うとすれば所得税法第四九条第一項、同法施行規則第四八条に基いて添付を要する証拠書類として収支計算書を同年四月二日までに提出補正すべき旨を同年三月二五日付で命じた補正命令にも応じなかつたので、同国税局長は、同年六月七日に所得税法第四九条第六項第一号に基いて原告の審査請求を不適法としてこれを却下する旨の決定をしたのである。したがつて、原告の本訴は所得税法第五一条に規定する訴願前置の要件を欠いている。

三、原告は、東京国税局長宛の審査請求書は被告宛再調査請求書の誤記であることが明白であるから当然再調査請求書として取り扱うべきであると主張するが、前述のとおり原告は再三訂正の機会を与えられながらしかも理由を明示してこれに応じなかつた以上、あくまで再調査請求をする意思がなかつたものと判断する外はなく、かような場合においてこれを再調査請求として取り扱う必要のないことはいうまでもない。仮りに右書面が再調査請求書として取り扱われるべきであるとしても、これには前述のとおり証拠書類の添付を欠き、原告は被告及び東京国税局長による補正命令にもかかわらずついに証拠書類を提出しなかつたのであるから、いずれにしても原告の本件再調査請求、したがつて本件審査請求が不適法であることに変りはない。

四、所得税法第四八条第一項、同法施行規則第四七条において再調査請求に証拠書類の添付を要求する趣旨は、これによつて能率的に適正な審理決定をすることを期するものであつて、具体的な事案につき証拠書類の添付が必要か否かによつて取扱いを二、三にすべきものではない。必要性の有無はむしろ添付された証拠書類の効果の問題であつて、形式的要件としての証拠書類の添付はその効果如何には関係がない。そもそも証拠書類の添付は、再調査請求の本質に属するものと解せられる。すなわち、抗告訴訟においては対等の立場に立つ二当事者が民事訴訟法の原則にもとずき主張立証責任を負わされるわけであるが、再調査請求、審査請求においてはいわば争訟の一方の当事者である処分行政庁又はその上級監督庁が自ら審理判断をするのであるから、かかる構成のもとにおいては請求人が単に処分に異議を申し立てるのみで具体的に不服の理由を明らかにせず、かつ、証拠書類の添付もしなければ、行政庁としては原処分と同一資料に基いて原処分の適否を考え直すにすぎず、原処分と違つた結論を期待することはとうてい望み得ない。かくては再調査制度、審査制度の意義は全く失われることとなる。他方において行政庁は処分後においても常に処分の適法性、妥当性については留意しているのであるから、もし違法あるいは不当な点を発見すれば不服申立の有無にかかわらず是正の措置をとるのであつて、前述のように単に行政庁の反省を促すにすぎないような再調査請求、審査請求は全く無意味なものとなる。また行政処分の要件の存否、とくに課税処分の場合において真実の所得がどうであつたかを最もよく知つているのは処分を受けた者自身であるから、不服申立に際し処分のうちどの点が真実に反するかを証拠に基いて具体的に指摘し、審理行政庁をしてできる限り客観的な判断を可能ならしめる義務が請求の形式的要件という形で請求者に課されるのはむしろ当然といわなければならない。

五、仮りに必要性の有無によつて証拠書類の要否がきまるとしても、本件においては次のように収支計算書の提出を求める必要があつた。すなわち、昭和三〇年九月頃、被告が訴外墨田交通株式会社の法人税調査に赴いた際、原告が架空又は偽名の預金を所有し、これらの資金を他に融通することにより多額の所得を得ていながら申告においてこれを脱漏していることを発見したので、原告に説明を求めたが協力を得られず、銀行を調査した結果貸金取引の事実を探知し、相手方借主の判明した分については借主について調査し、原告に支払い、又は支払うべき利息及び遅延損害金を算定し、相手方住所が不明等のため調査できなかつた分については、実地調査の結果得た利率によつて収入金額を推計し、貸金による所得金額を算定した。そこで被告が原告に修正申告をするよう勧告したところ、原告及び原告の代理人である税理士内山栄一は訴外大沢商事に対する貸金債権は回収不能であるからこれを控除すべき旨を申し出たので、被告は右貸金に充分な物的担保があることを指摘してその申出を拒否した。しかるに原告はなお修正申告に応じないので被告は本件更正処分をしたのである。かように被告としては実地調査のできなかつた分につき原告から貸付先住所氏名、貸付金額、貸付月日、返還月日、利率及び必要経費等について説明を求める必要があつたのに原告から提出された再調査請求書、審査請求書には不服の理由も明示せず、又右の点に関して何らの証拠書類の添付もないのでその補正を命じたのであるから、補正を求める必要性は充分にあつたといわなければならない。

(証拠関係)〈省略〉

理由

一、原告が昭和二八年度所得税につき別表第一記載のような確定申告をしたところ、被告は、昭和三一年一一月二〇日、別表第二記載のように更正する旨の処分(本件更正処分)をしたこと、原告は右更正処分に対し、同年一二月一八日、被告に対し、東京国税局長宛の審査請求書と題する書面を提出したところ、被告は、原告に対し、同月二一日付で収支計算書を提出するよう補正を命じ、さらに昭和三二年一月一四日付で右書面の表題を再調査請求書に訂正するよう通知したが、原告はこれに応じなかつたこと、東京国税局長は、昭和三二年三月二五日付で原告に対し、収支計算書を提出するよう補正を命じたが、原告はこれに応じなかつたこと、同国税局長が昭和三二年六月六日付で原告の審査請求を却下する旨の決定をしたことはいずれも当事者間に争がない。

二、一般に更正処分の取消を求める訴は、原則として審査の決定を経た後でなければこれを提起することができないことは所得税法第五一条第一項の規定するところであり、ここにいう審査の決定とは通常は適法な審査の請求に対して実体的な審理が行われた結果なされた決定をいうものであるが、適法な審査の請求があつたにもかかわらずこれを不適法として却下する旨の決定がなされた場合においても、その決定はなお所得税法第五一条第一項の審査の決定に該当するものと解するのが相当である。そこで本件において不適法として却下された原告の審査の請求が原告の主張するように果して適法なものであるかどうかについて判断を加えることとする。

原告が東京国税局長宛の審査請求書と題する書面を被告に提出したことは前述したとおりである。原告は、右書面の内容は本件更正処分に対する不服の申立であることが明白であるから被告宛再調査請求書の誤記であることは明らかであり、また被告が原告に対し証拠書類として収支計算書の提出補正を命じたのは被告において右原告の提出にかかる書面を再調査請求書として認めたものであると主張する。しかしながら、証人住友正昭の証言と成立に争のない甲第二号証によると、被告は原告から前述のような東京国税局長宛の審査請求書と題する書面を受領したものの、その内容は本件更正処分に対して不服を申し立てるという趣旨のものであつたので、被告宛の再調査請求書の誤りではないかと考え、被告の補助機関である浅草税務署係官において原告の代理人であつた内山税理土に尋ねたところ、同税理士はいずれそのように訂正するつもりである旨を答えたので、この点についてはいずれ原告の訂正をまつこととしてまず所得税法施行規則第四七条に規定する証拠書類として収支計算書及び貸付金明細書の提出を求める旨の補正命令書を原告に対して送付したこと、ところが原告はその後浅草税務署係官に対し、本件更正処分の処分庁である被告に不服を申し立ててもその取消を期待することができないから東京国税局長宛の審査請求書を被告宛の再調査請求書に訂正する意思はない旨を言明するにいたつたので、被告はあらためて文書をもつて審査請求は再調査決定を経てからでないと原則としてできないので右審査請求書を再調査請求書に訂正されたい旨を指示したけれども原告はこれに応じなかつたこと、そこで被告はやむなく右書面を審査請求書として取り扱い、これをその宛先である東京国税局長に送付したことを認めることができる。一般に更正処分に対しては原則として再調査決定を経ないで直ちに審査請求をすることはできないのであるから、特定の更正処分に対して不服を申し立てる趣旨の書面が処分庁である税務署長に提出された場合においては、その表題ないし宛先のいかんにかかわらず原則として右税務署長に対して再調査を請求する趣旨の書面、すなわち再調査請求書であると推定したうえそのように取り扱うのが相当であろう。この点は原告主張のとおりである。

しかし、そのように取り扱うべきであるということは要するに不服申立をした者の真意をそのように推定するにすぎないのであるから、不服を申立てた者が何らかの理由によつて処分庁に対し再調査の請求をするものではなく、あくまで国税局長に対し審査の請求をする意思をもつていることが明確であるような場合においては、その者が提出した書面を審査請求書として取り扱わざるを得ないことは当然である。

本件においては原告の代理人である内山税理士はいずれ被告宛再調査請求書に訂正するつもりであると述べていたものの、原告自身は前述のとおり本件更正処分の処分庁である被告に不服申立をしても原処分の是正を期待することはできないのでその意思はなく、東京国税局長に直接審査請求をするものであるという趣旨のことを言明し、かつ、被告の文書による訂正指示にも応じなかつたのであるから、原告が提出した東京国税局長宛の審査請求書を、たとえそれが直接国税局長に提出せられず被告に提出せられたからといつて被告宛の再調査請求書の趣旨であると解すべき理由は全く認められず、文字どおり審査請求書すなわち国税局長によつて直接審査さるべき不服の申立書の趣旨であると解するの外はないといわなければならない。また被告が、文書により表題及び宛先の訂正通知を行う前に収支計算書を提出すべき旨の補正を命じたのは前述のとおりのいきさつによることがうかがえる以上、このことをもつて直ちに被告が右書面を再調査請求書として認めたものと解するのは困難である。したがつて被告が右書面を東京国税局長に送付したのは当然の措置であつたといわなければならない。

東京国税局長が昭和三二年二月一八日、原告に対して同国税局長宛の審査請求書を被告宛再調査請求書に訂正すれば法定期間内に再調査の請求があつたものとして取り扱う旨を申し入れたところ、原告がこれに応じなかつたことは原告において明らかに争わず、弁論の全趣旨に照らしてもこれを争つているとは認められないのでこれを自白したものとみなすべく、また同国税局長が昭和三二年三月二五日付で原告に対し収支計算書を提出するよう補正を命じたが原告はこれに応じなかつたことは前述のとおり当事者間に争がない。東京国税局長が右のように原告に対して同国税局宛審査請求書を被告宛再調査請求書に訂正すれば法定期間内に再調査請求があつたものとして取り扱う旨を通知したのは、原告をして適法な再調査請求手続をさせるための再考の機会を与えるとともに、もし原告がこれに応じないときは右書面を表題のとおり審査請求書として取扱つてその請求を不適法として却下せざるを得ない旨の最終的な警告の趣旨であつたものと考えられるが、同国税局長がその後において原告に対し証拠書類として収支計算書を提出すべき旨の補正通知書を送付したのは果していかなる趣旨であるかは必ずしも明らかでない。これはあるいは原告の審査請求につき再調査決定を経ていないかしを宥恕するか、又は所得税法第四九条第四項の規定により審査の請求があつたものとみなしてその実体的な審理を行う前提として証拠書類の提出を命じたものではないかという疑問がないでもなく、殊にその後同国税局長が昭和三二年六月六日付でした原告の審査請求を却下する旨の決定の理由として単に原告が証拠書類提出の補正命令に従わなかつたことのみを掲げるにとどまつている点(このことは成立に争のない甲第四、第五号証の各記載により明らかである。)からみても、いつそうその疑いが濃いようにも考えられる。しかし同国税局長のとつた上記一連の措置は、あるいは同局長が原告がさきにした命令に従つて審査請求書を再調査請求書に訂正することを期待し、これを前提として計算書等の提出を命じたもので、審査請求却下決定の理由としてこの点を掲げなかつたのも、いずれにせよ不適法な審査請求であることに変りはないから特にこれを述べるまでもないと考えたためであるとも考えられないことはないし、あるいは原告が補正命令に従つて計算書等を提出してくれば、原告の審査請求をいちおう適法なものと認めて受理し、実体的な審理を行うつもりであつたが、原告が計算書等を提出しなかつたので結局不適法な審査請求として却下したものであるとも考えられるのであつて、同国税局長が更正処分の適否につき実体的審理をしたうえ裁決をした場合なら格別、そうでない本件においては、いずれにしても単に同局長がとつた上記の如き措置のみをとらえて直ちに前審手続としての再調査決定を経ないかしを宥恕したもの、又は原告提出の書面を再調査請求書と認め、所得税法第四九条第四項の規定により審査の請求があつたものとみなされたものとして取り扱つたものと解するのは困難であつて、その他にしかく解しなければならないとくだんの事情は認めることができない。

したがつて、原告の審査請求は再調査手続を経由しない不適法なものであつて、これを却下した東京国税局長の審査決定は結局において適法というべきである。

三、以上のとおり、本件更正処分の取消を求める原告の本訴請求は右処分につき所得税法第五一条第一項所定の審査の決定を経ておらず、また右決定を経ないことについて正当な事由があることを認めるに足る証拠も存しないから、その他の点を判断するまでもなく結局において不適法な訴であるといわなければならない。よつてこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浅沼武 中村治朗 小中信幸)

別表

第一、確定申告額

一、総所得金額          四〇五、六〇〇円

(一) 不動産所得       二〇一、二〇〇円

(二) 給与所得        二〇四、四〇〇円

二、所得控除額          二二二、七二〇円

(一) 医療費控除       一一九、七二〇円

(二) 生命保険料控除       八、〇〇〇円

(三) 扶養(一名)控除     三五、〇〇〇円

(四) 基礎控除         六〇、〇〇〇円

三、課税総所得金額        一八二、八八〇円

四、右三に対する算出税額      四四、一〇〇円

五、税額控除額(源泉徴収所得税額) 二〇、五〇〇円

六、差引年税額           二三、六〇〇円

第二、更正額及び加算税決定額

一、総所得金額        二、八六三、七〇〇円

確定申告額に雑所得として二、四五八、一〇〇円を加えたもの。

二、所得控除額          一〇三、〇〇〇円

確定申告額より医療費一一九、七二〇円を削除したもの。

三、課税総所得金額      二、七六〇、七〇〇円

四、右三に対する算出税額   一、三〇七、八八五円

五、差引年税額        一、二八七、三八〇円

六、納期区分中随時分     一、二六三、七八〇円

七、過小申告加算税額        六三、一五〇円

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